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成熟した製造現場で「問題が起きないと改善できない」は本当に問題か?

成熟した製造現場で「問題が起きないと改善できない」は本当に問題か?

製造現場、特に金型部品を扱う工作機械の現場では、上司から「問題が起きてからでは遅い」「日常巡回で危険や不具合の芽を見つけるべきだ」と指摘されることがあります。一方で、長年の改善活動により目に見える問題はほぼ潰し切っている現場も少なくありません。本記事では、両者のギャップを埋めるための具体的な解決策(暗黙知の見える化、チェックリスト化、ヒヤリ記録の仕組み)を実務ベースで解説します。

現場の実情:なぜ「問題が起きないと改善できない」のか

私の職場は金型部品の加工現場で、ここ10年間新人が入っておらず、全員が経験10年以上の熟練者です。日々の巡回で見える不安全は長年の改善でほぼ潰され、定期的な不具合レビューも実施しています。その結果、残っている課題は「熟練者の勘に頼るレベル」の兆候であり、外部や経験の浅い管理者には見えにくいのが現状です。

ポイント(要約)

  • 目に見える不安全や明らかな不良要因は既に改善済み。
  • 残る課題は「微細な兆候」や「暗黙知に基づく判断」。
  • 管理者が未経験の場合、危険の芽が見えにくいのは自然。

上司の懸念が“正しい”理由

管理側の視点では、「問題が起きて初めて原因が分かる」状態は受け入れがたいものです。理由はシンプルで、管理者は未然防止の仕組みを作る責任があるため、暗黙知依存の現場はリスクに見えるからです。

管理者が気にする代表的なポイント

  • 経験者にしかわからない作業が多すぎる(属人化)
  • 仕組み化(形式知化)が進んでいないように見える
  • 万一の退職・長期欠勤でノウハウが失われる恐れ

現場力を維持しつつ上司を納得させる“仕組み化”の手順

結論:熟練者の暗黙知を「言葉」にし、チェックリスト・異常兆候リスト・ヒヤリ記録といった仕組みに落とし込む。これにより上司の管理不安は軽減され、現場の品質と安全はより強固になります。

ステップ1:暗黙知の棚卸し(現場ヒアリング)

熟練者に「普段何を見て判断しているか」「音・振動・感触のどの変化が危ないか」を細かく聞き取り、箇条書きにします。

ステップ2:チェックリスト・異常兆候リストの作成

ヒアリングした内容を、日常巡回や交代時のチェック項目としてフォーマット化します。例:

例:工作機械 日常チェック

  • 【振動】通常運転と比較して異常振動がないか(左右/上下)
  • 【音】加工音が甲高くなっていないか(いつもより高い/低い)
  • 【切粉】切粉の出方が変わっていないか(量・形状)
  • 【温度】主軸・ギアの過熱兆候(触診/非接触温度計)
  • 【寸法】同一品で微妙な寸法バラつきが出ていないか(サンプリング)

ステップ3:ヒヤリ・小さな違和感の記録

「大事故にならなかった違和感」こそ貴重なデータです。紙でもデジタルでも良いので、簡単に記録できるフォーマットを用意します。週次で集計・共有すれば兆候の蓄積が見える化されます。

ステップ4:管理者向けダッシュボード(見える化)

チェックリストやヒヤリ記録の結果を簡易グラフやサマリにして、上司が一目で現場状態を確認できるようにします。言葉で伝えるだけでなく、仕組みとして提示するのが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1: 「現場力が高い」は上司に伝わりますか?
A: 「現場力が高い」だけでは伝わりにくいです。上司は「仕組み化された証拠(チェックリスト・記録)」を重視します。現場の現実+仕組み化案をセットで示しましょう。
Q2: 暗黙知はどうやって言語化すればいい?
A: 若手とベテランのワークショップ形式で聞き取り→簡潔なフレーズに落とし込み→チェックリスト化、が効率的です。
Q3: ヒヤリの記録は手間になりませんか?
A: 初期は少し手間ですが、テンプレを簡素化し「1分で書ける」形式にすれば定着します。価値は兆候の蓄積にあります。

まとめ:成熟した現場は「次のステージ」へ

「問題が起きないと改善できない」という現象は、改善が成熟した現場では自然なことです。しかし、それをそのまま放置すると「属人化」や「管理視点の不安」を生みます。暗黙知を形式知へ、簡易なチェックとヒヤリ記録で上司と現場の両方を納得させる仕組みを作りましょう。これが、現場力をさらに強化する最短ルートです。