「経験から学ぶ」という妄想|なぜ私たちは失敗から学べないのか
私たちは、まるで常識のようにこの言葉を使っています。しかし本当に、経験は自動的に学習につながるのでしょうか。
現場や組織、特に製造業の意思決定を見ていると、むしろ逆だと感じる場面が少なくありません。この記事では、「経験から学ぶ」という考えがなぜ妄想になりやすいのか、そして経験を本当の学習に変えるために必要な視点について整理します。
経験=学習ではない
多くの人が勘違いしていますが、経験しただけでは学習は起きません。
学習が成立するには、少なくとも次の要素が必要です。
- 行動した理由
- その結果として何が起きたか
- 結果をどう解釈したか
- 次にどう行動を変えるか
このプロセスが欠けると、経験はただの「思い出」で終わります。
なぜ私たちは経験から学べないのか
① 結果がすぐに見えない
設備投資、工程変更、人材配置、教育方針。
これらの重要な判断の結果は、数年後、場合によっては10年後に現れます。
その頃には、
- 誰が決めたのか分からない
- 他の要因と混ざってしまう
- 成功か失敗か評価できない
結果として、経験と結果が結びつかず、学習が起きないのです。
② 視野が限定されている
私たちは常に、自分の立場・部署・役割という限られた視野で物事を見ています。
その視野を超えた場所で起きている問題や影響は、そもそも観測できません。
つまり、見えていない失敗からは学びようがないということです。
③ 成功体験ほど危険
短期的にうまくいった経験は、強烈な学習として脳に刻まれます。
しかしその成功が、
- たまたまだった
- 周囲がフォローしてくれていた
- 問題がまだ表面化していない
こうした条件によるものだった場合、間違った学習が固定化されてしまいます。
これは失敗よりも厄介です。
「経験から学ぶ」は簡単な世界でしか通用しない
皮肉なことに、最も重要な意思決定ほど、経験から学びにくいという現実があります。
複雑で時間差のあるシステムでは、
- 原因と結果が遠い
- 因果関係が見えない
- 正しい評価ができない
この環境で「経験から学べ」と言うのは、ほとんど精神論に近いのです。
経験を学習に変えるために必要なこと
① 意図的に振り返る仕組みを作る
経験を放置せず、時間をおいて振り返ることが重要です。
- なぜその判断をしたのか
- 他の選択肢はなかったか
- 今の結果は何に起因しているか
仕組みがなければ、人は振り返りません。
② 自分の視野を疑う
「自分は全体を見ていないかもしれない」
この前提を持つだけで、学習の質は大きく変わります。
他部署・他人・外部の視点を意識的に取り入れることが必要です。
③ 経験を共有し、疑似的に増やす
個人の経験には限界があります。
- 他人の失敗事例
- 過去の記録
- 他社・他業界のケース
これらを活用し、経験の母数を増やすことで、学習は現実的になります。
まとめ|経験は放っておくと学びにならない
経験は貴重です。
しかし、構造的に振り返られない経験は、学習にはなりません。
「経験から学んでいるつもり」になっていないか。
一度立ち止まって考えることが、組織や個人の成長には欠かせないのだと思います。